DAOのゲームチェンジャーであるICPのSNS(Service Nervous System)について
Author:Odacchi
本稿の対象者: すでにスマートコントラクトやDeFi、DeFiにおけるガバナンスの現状への基礎的な理解がある人
はじめに
昨今では、クリプトの世界において、DAO(Decentralized Autonomous Organization = 自立分散型組織)という言葉をよく耳にするようになった。
その歴史は興味深いものではあるが、これについて言及している記事はすでに十分多いため、本稿ではDAOの歴史については詳細には触れないことにする。 (例えば、The DAOについては本来DAOを説明する際には避けては通れない例の一つではあるものの、本稿の本筋から外れるため、The DAOについては他の人の記事に任せることとする)
本稿では、DAOをDAO 1.0, 2.0, 3.0というようにDAOの進化に合わせてDAO自体を3つに分類することを試みる。
DAO 1.0
世界初のDAOはBitcoinコミュニティそのものだろう。 Bitcoin自体すでに完成されており、誰が管理せずとも絶妙なインセンティブ設計によって経済圏を今もなお拡大し続けているDAOの理想像の一つと言える。
DAO 2.0
BitcoinはDAOであるが、非常に原始的なDAOと言える。 Bitcoinに変更を加えようとする場合、変更したものに対し既存の参加者の大多数が支持しなければ、なかったものとなる。
想像のとおり、一つのアップデートの合意までのスピード感は出せない上、意見をまとめることが難しい。 すでにほとんど完成しており、ほとんど変化が必要ないからこそ採用できるガバナンスの状態と言える。
しかしながら、この方法は、ビジネスやプロダクトには使いにくい、すでに完成しているからこそ成り立つ方法だからだ。
そこで登場したのが、DAO2.0である。 一言でいうと、トークン化とトークンに議決権をもたせる試みを実現した組織を指す。 例えば、DeFiプロジェクトなどでは、金利レートの調整や、新しい通貨の上場など、明確な意思決定をそれなりの頻度とスピードで行う必要がある。
現在で有名な例はMakerやCompound, Uniswapなどである。重要な意思決定をガバナンストークンのホルダーの投票によって行っている。
DAO 3.0
まず、DAO 2.0の課題について述べたい。 DAO 2.0では、意思決定をガバナンストークンのホルダーによる投票で行うという建前ではあるものの、その投票結果自体には強制力はない。 DeFiの例で言えば、そのDeFiを開発した運営チームが存在するはずだが、その運営チームが投票結果を採用するかどうかは運営チーム次第である。 つまり、チームへの信用が必要である。
平たく言ってしまえば、ガバナンストークンのホルダーによる投票は、ガバナンスと言っておきながらも、機能的にはアンケートレベルのものでしかない。
そこで、この問題を解決したガバナンスの仕組みで動く組織形態をDAO 3.0と呼ぶことにしたい。
具体的には ICPのSNS(Service Nervous System)という機能を使って発行されたガバナンストークンを指す。 そもそもICP自体がWebの技術をブロックチェーンの技術を使って分散化を試みたものであるため、Webにできることであれば基本的になんでもできる。
SNSによって、機能追加自体をガバナンスによって行うことが可能になる。 機能追加の実装提案を実装コードとともに提案し、投票結果が賛成多数であれば、SNSがそのコードをプロトコルに取り込むような運用が可能だ。
また、前述の通りWebにできることであれば基本的になんでもできるため、BTCやETHのウォレット機能自体もICPプロトコル自体に統合される予定である。
これにより、Ethereumのスマートコントラクトをアップデートする特権をICPのコントラクト(キャニスターと言う)だけに持たせることで、Ethereumのフロントエンドだけでなくスマートコントラクト自体もICPのSNSによってDAO3.0に進化させることが可能となるだろう。
つまり、スマートコントラクト自体はEthereumで運用されつつも、DAOとしての運用はICP上で行うことによりプロジェクトの運用自体も分散化されるため中央集権制な運用による規制リスクの観点からも合理的な運用が可能になると言える。
ここまでの説明でカンが鋭い人であれば、お気づきであろう。 ICPのSNSのもとで運用されるDAOは、最終的には運営チーム自体がそもそも不要になる。
総論
本稿では、DAOを3つに分類した。DAO1.0の代表例がBitcoinの組織形態であり、DAO2.0がEthereumのDeFiプロトコル等で運用の組織形態、そしてDAO3.0がICPのSNSを組み込んだプロトコルによる組織形態である。
DAO自体、今もまだ試行錯誤が続けられるまだまだ未完成の組織形態であるものの、筆者はICPのSNSの登場により、DAOの最適解が与えられる可能性は高いのではないかとみている。
事実上運用チーム自体が不要、あるいは運用チームから特別な権力を分散化させることになり、トラストレスな仕組みになりながらも、意思決定とその強制が可能な組織形態が構築可能であるからだ。
最後に
本稿はICPにおける要注目のDAOプロジェクトNnsDAOのコンテストをきっかけに執筆したものです。NnsDAOはICP版のEtherscanであるICPScanなどの開発を手掛けるプロジェクトです。 よければ、以下のリンクをチェックしてみてくださいね!